column 2011.11.8
 
茨木町アパートリノベーション

リノベーションアパート“鞍月舎”のその後(前編)

松本ゆうみ(金沢R不動産/E.N.N.)
 

完成から8カ月が経過した茨木町のリノベーションアパート「鞍月舎」。入居されたテナントさんたちをご紹介します!

現場の仮囲いに「素敵なコトがおきそうです。」と書いた懸垂幕をかけて工事をしていたのが、ついこの間のような気がします。2階のお部屋はすべて入居が完了し、1階のテナントスペースも1ブースを除いた3店舗が営業中。まさに「素敵なコトがおきそう」という私たちの予感は的中するかたちで、裏通りに新たな流れを生むような他にはない場所となりました。

今回は、「リノベーションアパート“鞍月舎”のその後 ~前編~」と題して、2階のお部屋をそれぞれアトリエ、オフィス、サロンとして使っている4人の女性にスポットをあて、“鞍月舎”の今をレポートしたいと思います。

2-e号室/ 「Lecture du minuit(レクテュール・ドゥ・ミニュイ)」木谷さやかさん

小学校で使われていた机やオーダーしたヴィンテージのソファ、自分でペイントした椅子など、一つ一つセレクトしたストーリーのある家具や小物が、バランス良く配置されているインテリア。ロフトの下には、ミシンとたくさんの小瓶に入ったビーズやレースが並んでいます。

このお部屋の主は、ウェディングドレスのクチュリエとして活躍する木谷さやかさん。木谷さんの作るウェディングドレスは、どれも花嫁さん一人一人のために一からデザインをおこすという完全オーダーメイド。世界にひとつだけのドレスを花嫁さんと一緒に作りあげていくようなイメージで、デザインの打ち合わせから、仮縫いドレスのフィッティング、修正、生地選び、本ドレスのフィッティングと最低でも4~5回はアトリエに足を運んでもらい、仕上げていくといいます。

「何度も通ってもらう場所だから、何度来ても楽しいと思ってもらえる場所にしたかった」と話す木谷さん。
鞍月舎のお部屋はスイッチや水栓金具、ドアノブなどの細かい部分までこだわってあるので、何度来ても新たなカワイイを発見できると、訪れる花嫁さんからの評判も良いそうです。海外のアパルトマンのようなどこか懐かしく落ち着ける空間で、今日も世界に一人のためだけのドレスが生まれています。

※Lecture du minuitは移転いたしました。(2016年追記)


2-d号室/ 「Officeアシスタ」山川広美さん

赤と白でまとめられたシンプルなお部屋は、コーチングや人材育成のお仕事をされている山川広美さんのオフィスです。すぐ前を流れる鞍月用水のせせらぎが聞こえてくるのがとても気に入っていただいています。

以前は、オフィスビルが建ち並ぶ南町のインキュベーション施設内で事務所を持っていたという山川さん。条件は良いものの無機質な空間だったので「もっと良いところがあったら移りたい」と漠然とながら考えていました。物件資料を見たりしてはいたもののピンと来るものはなかなかなく、内見までには至らず。そんな時にお友達に紹介された金沢R不動産のホームページを見て、はじめて実際に内見してみようと心が動いたのが、鞍月舎だったそうです。

オフィスの名前になっている「アシスタ」は、assist(訳:助ける、手伝う)のイタリア語。「相手に教えるのではなく、対話やワークショップを通じて、相手の成長を助けたり、自ら気づくためのお手伝いをしたりするのが務めだと思っている。そして、イタリア人のような陽気さを持って」と山川さんは話してくれました。「そのためにも、まず自分が体現すること」。山川さんのお部屋を見渡すと、たくさんの書籍はもちろんのこと、人との出会いがきっかけで習い始めたというチェロや、魅了されているチベッ ト仏画など、一つ一つの出会いを大切にして、自分自身を高めていく山川さんの姿勢を垣間見ることができました。


2-c号室/ 「TRUNKA」天光鮎美さん

作品制作と展示の場としてこのお部屋を活用しているのは、樹脂アクセサリー作家の天光鮎美さん。扉を開けると、レトロな什器にいくつも並んでいる小さな作品たちに目を奪われます。

手にとってじっくりと見てみると、一つ一つの樹脂の中には、天光さんが収集したパーツがぎゅっと封じ込められています。それはアンティークのボタンだったり、海外のピンバッジだったり、チャームやカギ、シャンパンのボトルキャップなども。それぞれに思い入れのあるものをコラージュのように組み合わせて、透明な樹脂の中に小さな物語を作っていきます。作品は市内の雑貨店に委託商品として卸すほか、週末のイベントで自ら販売もしているそう。

天光さんが鞍月舎に入居されたのは、夏の終わり。内見を申し込んだ時には自分でアトリエを持つことをそれほど具体的に考えてはいなかったといいます。決め手は何だったのかを尋ねると、「建物に入った瞬間、イメージが沸いたんです」という回答が返ってきました。階段下にある集合ポストや時代を経た柱の味わい、建物全体の雰囲気から、始めるなら絶対ここだと直感したんだとか。まだ少し不安はあったものの、年齢や境遇の似たクリエイターや起業家の女性たちが集まっている鞍月舎の環境も、天光さんの背中を押してくれました。それぞれの個性が集まる場所という鞍月舎のコンセプトは天光さんの作品と通じるところがあるのかもしれません。

※TRUNKAは移転いたしました。(2016年追記)


2-b号室/ 「litre」木下久美子さん

8月にここでネイルとアイラッシュの小さなサロンをオープンさせたのはネイリストの木下久美子さん。

以前からネイルサロンの店長として活躍していた木下さんが独立を意識し始めたのは2年程前のこと。少しずつ準備を進め、本格的にお店の候補地についても考え出した頃、鞍月舎(まだその頃はアパート名が決定する前でしたが)のプロジェクトを知ったそうです。建物が完成しまもなく開いた内覧会で、実際に中を確かめ、すぐに入居を決められました。「来てくださるお客様の中でも、『ここに住みたい!』って言う方が多いんですよ」と話す木下さん。自身も入居からオープンまでの数ヶ月はここに住みながら開店準備をしてきました。

今では、オーダーで作ってもらったというネイル施術のためのテーブルが2台とアイラッシュ用のベッドが1台置かれ、室内はしっかりサロン仕様になっていますが、お友達のお部屋に遊びに来たかのような気を張らずにゆったり寛げる雰囲気はこのサロンならでは。響きの良いものをと悩んだ末に決めた店名は、「litre」。水量を表す単位であるこの名前にちなんで、メニューカードにはビーカーのイラストが描かれています。ここに水を注ぐように、来てくれるお客様の心を満たす存在になれたらと今後への思いを語ってくれました。

ご紹介したように、四者四様 に使われている鞍月舎の2階。扉の向こう側は、このアパートの魅力である古い柱や梁の味わいを活かしながらも、4人の女性それぞれの個性が溢れるものになっていました。

そもそもこのリノベーションプロジェクトも建物のオーナーであるひとりの女性の「思い入れのある建物を蘇らせたい」という思いから始まったもの。そのバトンを受け継ぐかのように、新しくスタートをきった「鞍月舎」は今後ますます素敵なコトがつながるスポットに発展していくことと思います。

次回の「リノベーションアパート“鞍月舎”のその後 ~後編~」では、1階で営業しているコーヒーショップ「橘珈琲店」さん、うるしショップ「輪島キリモト・金沢店」さん、ギャラリー「HACO:ya」さんをレポート予定。盛り上がる鞍月舎にまだ訪れたことがないという方は、ぜひ足をお運びください。

■Officeアシスタ
住所:金沢市茨木町56-3 鞍月舎2階 2-d
電話:076-222-2340
営業時間:ご連絡のうえお越しください

■litre(リットル)
住所:金沢市茨木町56-3 鞍月舎2階 2-b
電話:076-204-9373
営業時間:11:00~20:00(予約制 当日予約可)
定休日:木曜、第1水曜、第3日曜

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