column 2008.5.19
 
Rトピックス

建築家による歪(いびつ)のススメ

小津誠一(金沢R不動産+studio KOZ./E.N.N.)
 

金沢R不動産を訪れる方も様々。賃貸や分譲のマンションを探している方もいらっしゃれば、一軒家、店舗やオフィスを探している方もいらっしゃいます。
もちろん、家を建てるための土地を探している方もいらっしゃいますが、今回はそんな一世一代の大仕事「家を建てる!」を目標としている方のために、金沢R不動産的な土地探しのヒントとして「建築家による歪(いびつ)のススメ」をお送りします!

これぞ歪な土地。左から北側接道、超うなぎ、三角変形。

なぜ「歪(いびつ)」がいいのか?

家を建てるにあたって、何はさておきそれが建つ土地を探し購入する、あるいは借りることから始まります。その判断基準には、エリアや値段、面積はもちろんですが、土地の形まで様々な指標があります。
そんな中、今回は、建築家の視点から、土地の個性の評価についてご紹介したいと思います。個性的な家を建てたい! という方、必読です。

一口に土地といっても、様々な形があります。
代表的なものは、新興住宅街の整形の土地。これは平坦なエリアに格子状の道路、四角形の宅地が整然と並んでいるもの。これらの場合、金沢では、農地からの宅地転換が多いでしょうか。不動産広告ではトップを飾り、各ハウジングメーカーの新築が立ち並ぶ競争率の高いメジャーな存在といえるでしょう。

他方で、不整型な形だったり、傾斜地だったり、極端に細長かったりという土地があります。これらは、多くの規格型商品住宅が素直に納まってくれない為に避けられがちで、マイナーな存在です。ところが、この「歪(いびつ)」な土地は、建築家から見ると、価格も控えめ、その分を建築費用に充てることも可能で、形が個性的な分だけとてもやりがいのある土地なのです。

なぜなら……
敷地までの道のり、近隣のたたずまい、そこから見える景色や借景、風の通り道……などなど様々な土地固有の情報を読み取る建築家にとっては、家づくりのヒントに溢れているからです。
個性溢れる「歪(いびつ)」な土地からは、「こんな家を建ててくれ!」と訴えている声が聞こえてくるようです。
そこで、建築家は、その土地の声に耳を傾け、その訴えに呼応するようにして、そこにしかない、たった一つのオリジナルの家をデザインしていくことになります。

では、具体的にどんな土地にどのような家が可能なのか?
いくつかの「歪(いびつ)」な土地をサンプルにアイデアをご紹介したいと思います。

事例1 「北側接道」に建つ「中庭の家」

天井高の変化や部屋配置の工夫によって、中庭から採光や通風がすべての部屋に。

南側接道と呼ばれる神話があるくらい、南側に道路がある土地が好まれます。特に日当たりを重視する金沢では、北側接道は避けられがち。
しかし、ちょっとした工夫やアイデアでその神話は崩れ去ります。
つまるところ、その神話とは、家と太陽との関係のことであり、それならば、採光や通風の取り方で解決できます。

ご紹介するアイデアでは、家の真ん中に庭を配置し、全ての部屋が中庭からの光や風といった恩恵をいただけるようにしています。中庭を、2つ目のリビングの様な存在へと高めることができます。

(左)いわゆる整形宅地ですが、北向きであることが弱点でもあり、個性でもある。(右)3つの箱が明るい中庭に面するというコンセプト。

画像をクリックすると拡大してご覧いただけます。

事例2 「超うなぎ」に建つ「ながーい家族の部屋」

2つの庭(中庭と階段)が三層を貫いています。

金沢では、おなじみの「うなぎ」。これをさらに長細くした「超うなぎ」な土地。背後には竹林の傾斜もあります。
ここでは、避けられがちな個性の突出をさらに伸ばすという典型的なアイデアです。
ただでさえ長い敷地で、家の中心的な存在の部屋、つまりLDKを長〜いワンルームにしてしまいます。長い部屋の奥には、借景の竹林もひかえています。

さらに、うなぎの寝床と呼ばれる伝統的な町家に習って、光や風の通り道となる中庭を配置しています。この極端に長細いプランでは、天窓付きのらせん階段が光の筒として、2つ目の中庭の役目を果たしています。この2つの庭がそれぞれの用途を分ける間仕切りにも一役買っています。

(左)うなぎな敷地。奥には県立歴史博物館から続く竹林が。(右)二階キッチンから、リビング方向。奥の方に、二つの庭越しに竹林が見える。

画像をクリックすると拡大してご覧いただけます。

事例3 「三角変形」に建つ「多庭の家」

和室からリビングを見ると、二つの庭、吹き抜けと多彩な表情が見えてきます。そして、多角形の部屋は、広がりを感じさせる効果も。

道路に囲まれた、三角変形の土地。三角形という形は、部屋として使いにくい鋭角が三つもあるということで避けられがちです。
ここでは、その弱点をコペルニクス的展開のごとく、個性的な長所に変えてしまうアイデアです。

三つの角を庭にした多庭の家としています。それぞれに性格の異なる庭とすれば、なかなか面白いことになりそうです。
そして、三方が道路に面するということは、建物全周が道行く人から見られる点が気になりがち。そこで、部屋の窓は、庭を挟むことで、道路に対してはワンクッションおくことができます。

さらに、それぞれの庭の道路面にも開口を設けているので、そこから顔をのぞかせる植物が、道行く人の目を和ませてもくれます。

(左)鋭い角度が三つもある土地。おまけに三方道路。(右)庭に面したガラスの無い窓から、植物がのぞき和ませてくれます。

画像をクリックすると拡大してご覧いただけます。

以上、3つのサンプルをご紹介しましたが、「歪(いびつ)」な土地は、ちょっとした発見や発想から、整形な土地には無い長所を導き出してくれます。人の個性を育むことに似ているかもしれません。

実際の家づくりでは、生活スタイルや様々な要望や条件といった、施主の個性も加わって、さらに魅力ある家になると思います。

ここはひとつ、土地探しの段階から、その個性を引き上げてくれる「パートナー探し」から始めてみては? 思わぬ土地が、あなたの家の敷地へと姿を変えるかもしれません。

「建築家による歪のススメ」いかがでしたか? 金沢R不動産では、建物や部屋といった物件と同様に、金沢R不動産ならではの切り口で土地もご紹介しています。
私たちと一緒に土地の声に耳を傾けてみませんか?
必要とあらば、たった一つのあなたの家に、その声を活かすお手伝い、いたします!

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